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ホリのおじぃー。



“ホリのおじぃー”と呼んでいる。
後ろに写っている“和代丸”の船長だ。
昭和七年生まれなので今年でいくつになるのか、かれこれ八十近いはずだけれどこの通りの屈強な肉体を維持している。
“孫は十人、ひ孫も十人いるさぁー、もっといたかな?かぁーちゃん”
おじぃーから“かぁーちゃん”と呼ばれる奥さんは海が大好きで、腰を悪くするまでは和代丸で一緒に漁に出ていた。
“かぁーちゃんがグルクン釣ったらぼくよりうまいさー”
色白できゃしゃにさえ感じる小柄な“かぁーちゃん”は他の島のおばぁー達と少し感じが違う。
聞けば出身は青森県だという、“かぁーちゃん”のお父さんは戦前に西表島の炭坑に働きにきてその時に八重山で生まれた。
暮したことはないけれど青森も海の近くだったしここも海に囲まれている、だから私は海が好きだと笑う。
町内の誰もが認めるおしどり夫婦は、“かぁーちゃん”の体調さえよければどこに行くにもおじぃーの運転する車で一緒に出かける。
週末なら軽のワンボックスに何人かの孫とひ孫が加わる。
先週おじぃーからエンジンのメンテナンスを教えてもらう約束をとりつけた。
おじぃーは沖縄がまだ“アメリカ世”の時代に一級機関士免許を取った。
パーツの説明が英語混じりなのはそのせいで、ボルトやナットもインチで表現する。
“エンドォーさん、イチインチのレンチとって”
・ ・・・・・
自由に振り向くこともままならない狭い船の機関場はそれだけでも息苦しい、あごを上げると天井をはう様々なパイプのどれかに頭をぶつける。
天井の甲板は八重山の太陽に照らされ揮発した油類は室内に充満している。
そして港に舫われた船は他の船が通過するたびに重く揺れる。
“エンドォーさんこのパイプが詰まるとデェージさ、フウッっと吹いて”
重油を満たしたバケツから取り出した金属のパイプを、口で吹いて中の詰まりを吹き出せという。
こんなことならメシは食わずに来るべきだった、脳内温度は上昇し背中は冷や汗が流れている、パイプの詰まりを解消した瞬間に朝飯を詰まらせそうな気分だ。
“ホリのおじぃー、ちょっと、ちょっとだけ休憩”
返事を聞く間もなく這いつくばって機関場から出ると、岸壁に停めてある軽自動車に“かぁーちゃん”が乗っていた。
エンドォーさん、頑張るね。
ここは照れることしか出来ない。
後から出てきたおじぃーは炎天下のかぁーちゃんが心配だから今日は止めにしようかという。
そうそれがい、かぁーちゃんがなんと言おうがいそれがいい、今のぼくにはエンジンのメンテよりも船酔いを克服しなければならない。
ホリのおじぃー、漢字では保里と書く。

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