寒い日が続いている、内地もこの冬は雪が多いそうですね。
昨日は東京でも初雪が観測されたとか、二千キロ離れていてもそこは石垣島も日本の一部、今朝は冷えきっていて最低気温が十二度だ。
石垣島に五年住んでいて十三度を割ったのは初めての体験かもしれない。
こんな寒波の日珊瑚の浅瀬では急な水温の低下で麻痺した魚たちが波打ち際に打ち上げられる。
写真の右肩かすかに映っている島は”沖の神島”。
三島由紀夫の小説”潮騒”の舞台になった島も呼び名は同じ”沖の神島”だがあちらは三重県。
こちらの”沖の神島”は西表島の南7マイル、波照間島の西12マイルの線が重なった洋上に突き出た無人島だ。
島といっても南北に伸びた稜線は薄く六曲半双の屏風の様な形で、左右の崖は垂直に海に落ちている。
寸分も平らな場所がない鳥だけが棲む孤島だ。
石垣島から最短距離で約40マイル、約73キロの距離に存在する。
昨年までは自ら遠征してみようなどと考えもしなかった。
行ってみる気になったのは写真に写る、釣り船”長内丸”のベテラン船長長内さんの協力を得たこと、そしてここのところ石垣島周辺だけでは漁協に卸すに足りる漁獲を確保できなくなってきたからだ。
沖の神島へは最短でも一泊二日で行く、レジャーダイビング船なら日帰りもするが、漁師がこの距離を日帰りしていたのでは燃料費などの負担が大きすぎる。
一泊二日なら昼を二回夜を一回釣り続けることができる。
どの海人のオジーに聞いても、漁獲を上げるなら”沖の神島”より以遠という。
石垣リピーターのダイバー達にも大物狙いのアングラー達にも羨望の島、気楽にはたどり着けない、それだけに天気の読みには十分な注意が必要になる。
その日、空ははなだ色に晴れ波高は2メートルから1.5メートルの予想、ジョォートォーである。
石垣港を出て進路を南西にとる、午前九時を過ぎていまだ太陽がまぶしいのはこの冬の時期だけだ、三月がくれば太陽は絶えず頭上から照りつけてくる。
竹富島の左にもうけられた航路には海の中に立てられた赤青の標識があり、赤の標識を右に見て進めば座礁することなく進路を導いてくれる。
12ノットで一時間走ると左に黒島が近づいてくる、この一体は石西礁湖の中心で一面ラムネを流したような紺碧の海が右の小浜島や正面の西表島まで続く。
波さえなければ小舟のサバニは宙に浮いて見えるほど透明度が高い。
波照間島に直接向かうならここで黒島を左に見ながら進路を真南にとるところだけれど、沖の神島はまだ西、前方に浮かぶ二つの小島新城(アラグスク)をやりすごさなければならない。
上島、下島と二つ並んだこの島を石垣では日常パナリ(離り)と呼んでいる。
港を出て二時間パナリの下島を過ぎると石西礁湖最後の青い標識(大原航路21)を通過する。
ここから太平洋に入ると海は急角度で深さを増す、西に向かって五分も走ると水深は1000メートルに達する。
透明ガラスを何十枚も重ねたあの色の海を一時間と少し走りぬけば、あこがれ”沖の神島”に到達できる。